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盛岡地方裁判所 昭和63年(行ウ)4号 判決 1989年11月09日

主文

一  被告が、原告に対して、昭和六三年四月一五日付でした別紙第三次処分目録記載の一時利用地指定変更処分を取り消す。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の所有者である。

2  被告は、原告に対して、昭和六二年六月三〇日付で別紙第一次処分目録記載の従前の土地について使用収益を停止し、これに代わり同目録記載の一時利用地を指定する一時利用地指定処分(以下「第一次処分」という。)を、昭和六三年三月二九日付で別紙第二次処分目録記載の従前の土地及び同目録記載の変更前の一時利用地について使用収益を停止し、同目録記載の従前の土地に代わり同目録記載の変更後の一時利用地を指定する一時利用地指定変更処分(以下「第二次処分」という。)を、昭和六三年四月一五日付で別紙第三次処分目録記載の従前の土地及び同目録記載の変更前の一時利用地について使用収益を停止し、同目録記載の従前の土地に代わり同目録記載の変更後の一時利用地を指定する一時利用地指定変更処分(以下「本件処分」という。)を、それぞれ行った。

3  本件処分は、工事の必要に基づかず、かつ、換地計画を定めずになされたものであるから、違法なものである。

よって、原告は被告に対し、本件処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2は、認める。請求原因3のうち、本件処分が工事の必要によるものではないこと及び本件において換地計画が定められなかったことは認め、その余は争う。

三  被告の主張

1  区画整理を伴う土地改良事業における換地は、農家の従前地(工事前の土地)に対する感情を考慮し、権利関係の安定を図るため、従前地が最も密集した位置を中心に定めること(以下「従前地換地」という。)を通例としている。農林水産省の通達(昭和四七年五月二九日四七農地B第八二一号農地局長から都道府県知事あて「換地計画実施要領について」)においても、換地選定、すなわち、工事後の土地の位置や面積の配分を行う際の基準である「換地設計基準」例として、そのことは示されており、被告においても、換地処分を想定した最終的な一時利用地の指定又は指定変更の際には、従前地換地を旨とする一時利用地指定を行うこととしている。

2  第一次、第二次処分及び本件処分は、ほ場整備事業県営和賀中央第二地区の一環としてなされているものであるが、この事業においても、当該地区内関係農家からのアンケート調査の結果に基づき、昭和五八年四月、換地委員会(換地選定等を行うため関係農家から選出された四七名の者によって構成された組織)において作成した「和賀中央第二地区換地設計基準書」のとおり、従前地換地によることが定められている。

3  そこで、被告は、別紙一時利用地の指定及び指定変更経過図(以下「別紙図面」という。)の赤色で枠取された地域の工事が昭和六三年四月一二日完了したことにともない、従前地換地を旨とし、原告に対して、同月一五日付で、換地処分を想定した最終的な一時利用地の指定変更を目途として、従前地が最も密集した原告の宅地回りの位置を中心に農用地の集団化を図り、青色で着色された区域から緑色で着色された区域に指定変更したものである。

なお、右青色で着色された区域については、右と同様趣旨に基づき、同区域に従前地を有する農家に対して、一時利用地の指定変更を行った。

四  被告の主張に対する認否

争う。

第三  証拠<省略>

理由

一  請求原因1、2は、当事者間に争いがない。

二  本件処分がその要件を具備するかについて

1  土地改良法上、一時利用地の指定の変更について定めた明文の規定は存しない。しかしながら、一時利用地の指定は、終局的又は確定的な性質を有する処分ではないから、その必要に基づきこれを取消す(撤回する)ことも可能であると解されるし、そのような取消し(撤回)がなされた場合であっても、一時利用地の指定の要件を満たす限りにおいては、行政庁が、更に新たな一時利用地の指定を行うことを否定すべき理由は何ら認められないのであるから、一時利用地の指定の変更は、既になされた一時利用地の指定の取消し(撤回)と新たな一時利用地の指定を合わせ行う処分として許容されるものというべきである。

そこで、一時利用地の指定の要件についてみるに、土地改良法八九条の二第六項によれば、都道府県知事は、土地改良事業の工事のため必要がある場合(以下「前段の場合」という。)又は土地改良事業に係る換地計画に基づき換地処分を行うにつき必要がある場合(以下「後段の場合」という。)に、土地改良事業の施行に係る地域内の土地につき従前の土地に代わるべき一時利用地を指定することができるものとされている。そして、前段の場合は、土地改良事業の工事の施行のために一時従前地の使用収益を停止させる代わりにこれに照応する他の土地を仮に使用収益させるものであるから、換地計画の有無を問わずになし得ることが明らかであるし、また、前段の場合の要件を具備した一時利用地の指定を行うに際し、換地計画の定めのないままに、事実上将来の換地処分を見越したような換地予定地的な一時利用地の指定(いわば換地予定地的一時利用地の指定処分)を行うことも許容されるところである(土地区画整理法に基づく仮換地指定処分に関する最高裁判所第三小法廷昭和六〇年一二月一七日判決・民集三九巻八号一八二一頁参照)。しかしながら、そのような換地予定地的一時利用地の指定処分を行うためには、それが前段の場合の要件、すなわち、土地改良事業の工事のため必要がある場合であることを具備していなければならないことはいうまでもないところである。

これに対して、後段の場合にいう「換地処分を行うにつき必要がある場合」とは、換地処分前において従前の土地についての使用収益権限を将来換地となるベき土地に移転しておくことによって、関係権利者の地位を安定させるとともに、換地処分を円滑に実施する必要がある場合、すなわちいわゆる換地予定地的一時利用地指定処分を行う必要がある場合を指すものと解される。しかしながら、その場合においても、換地計画自体が変更されるというような極めて例外的な場合を除き、その一時利用地指定処分の当時考えられていたのと異なる内容の換地処分が将来なされ、その結果として、一時利用地とは別の土地が換地として指定されるという事態が生じることのないように、将来その土地がそのまま換地に移行することを予定してなされるべき必要性があり、右にいう必要性の程度は前段の場合の要件をも満たす場合になされるいわゆる換地予定地的一時利用地指定処分の場合に比べ、著しく高いものとなる。また、そのような要請を満たすためには、その一時利用地の指定は、土地改良法八九条の二第二項によって準用される同法五二条五項前段に定められている会議(いわゆる換地会議)における議決を経るなど、関係者の意向を十分に反映させた慎重な手続を踏んで作成されるところの換地計画の存在を前提とし、これに基づいてなされる必要があるものであって、土地改良法八九条の二第六項が、後段の場合について、特に「換地計画に基づき」と規定したのは、これらの趣旨を表したものと解される(土地区画整理法に基づく仮換地指定処分に関する大阪高等裁判所昭和五七年六月九日判決・行裁集三三巻六号一二三八頁参照。なお、最高裁判所第二小法廷昭和六一年二月二四日判決・民集四〇巻一号六九頁は、いわゆる換地予定地的一時利用地指定処分を土地改良法が当然に予定している旨判示しているが、当該事案は、同判決が、その指定処分が換地予定地的な一時利用地指定処分であることを判示するに際し、右一時利用地指定処分は「『専ら』土地改良事業の工事のためという目的で本件土地を文字どおり暫定的な利用地として指定したという処分ではなく」とか、「『純然たる』工事のための処分ではなく」として、その目的が工事のために尽きるものではなかった旨を判示していることから看取されるように、工事のための必要性が含まれていた事案であって、全く工事目的の存しない場合であっても、換地計画に基づかない換地予定地的一時利用地指定処分が許される旨を判示したものとは解し難い。)。

2  そこで、これを本件についてみるに、本件処分は、既にみたように、既になされた一時利用地の指定の取消し(撤回)と、新たな一時利用地の指定を合わせ行う処分と把握されるところ、本件処分においてなされた新たな一時利用地の指定が、工事の必要によりなされたものでないことは当事者間に争いがなく、したがって、その指定が前段の場合として適法になる余地は存しないし、また、本件において換地計画が定められなかったことも当事者間に争いがないところ、これを被告の主張する換地委員会なる法定外の組織の作成した「和賀中央第二地区換地設計基準書」なるものによって代用しえないこともいうまでもないから、その指定が後段の場合として適法になる余地もまた存しないといわざるをえない。

3  そして、本件処分には、従前の土地と重複する土地部分を一時利用地とする指定が含まれているが、本件処分においてなされた新たな一時利用地の指定は、そのような部分を含めた全体としての一時利用地と、全体としての従前の土地との照応を考慮してなされたもので、既になされた一時利用地の指定の取消し(撤回)と、新たな一時利用地の指定との間にも相互に密接な関連性が存するもので、本件処分は全体として一個の処分を構成しているものというべきであるから、本件処分は全体として、その要件を具備しないにもかかわらずなされた違法なものというべきことになる。

三  よって、原告の請求は理由があるので認容し、訴訟費用の負担について、行訴法七条、民訴法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中田忠男 裁判官 加藤就一 裁判官 松井英隆)

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